ディケンズ (1812-1870) の「荒涼館」(1852-1853) を読んで 第1回「2005年BBC制作のテレビドラマ「Bleak House」その他」

ドストエフスキーを読んで疲れた時には、経験上、これは間違いなくディケンズが効くんです (笑)。
そう言う割には、僕がこれまでに読んだディケンズは、実はそんなに多くはなくて、「大いなる遺産」(上下巻)、「二都物語」(上下巻)、「クリスマス・キャロル」(以上いずれも新潮文庫)。
それに加えて「デイヴィッド・コパフィールド」(全五冊)、「ボズのスケッチ 短篇小説篇」(以上いずれも岩波文庫) くらいのものですが、それでもまあ一応、確信?のようなものをもって読み始めた「大いなる遺産」(今回は河出文庫、表紙の絵がとても素晴らしい!) の再読でしたが、なぜか上巻を読み終えたところでおしまい、残念。

引き続いて、以前から気になっていたミハイル・バフチンの「ドストエフスキーの詩学」(ちくま学芸文庫) の初読。

読了後、メルヴィルの「白鯨」(岩波文庫) の初読。
硬派であるとでも言いますか、本来の意味でとてもハードボイルドだなと感じたものの、なぜか上巻を読み終えたところでこれもおしまい、とても残念。

なんだか中途半端でモヤモヤして、これは非常によくないパターンだなと思いながら、再び苦しい時のディケンズ頼みで読み始めたのが「荒涼館」(岩波文庫全4巻) の初読。
ここで、ようやくタイムングがぴたりと合いました。
やっぱり読書は改めてつくづくその時の自分にジャストミートするかどうかですね。
そして、僕はディケンズの並外れた筆力を堪能しながら、この夏はもうほとんどすべて「荒涼館」とともに過ごしていたと言っても決して過言ではありません (笑)!

やや紋切り型な言い方にはなりますが「下層の労働者の生活を哀歓をこめて描き、世の不正・矛盾をユーモアを交えて批判してくる」ディケンズこそが、世界文学史上最大の作家だと言ってはいけないのでしょうか、そうではないのでしょうか。
そしてこの夏、これまで僕の中で長らくディケンズ 作品の堂々たる1位を占めていた「大いなる遺産」は、惜しまれつつもその座を譲り渡し、今度はそれに替わって「荒涼館」が燦然とその地位に輝いたのでした、とてもめでたし、パチパチ!

(©︎BBC, Bleak House, 2005, William Guppy)

今回は僕の読書の仕方としては初めて、ある程度読み進めたところで、2005年BBC制作の「Bleak House」を1回分観る、またある程度読み進めては「Bleak House」を1回分観るという、それがいいことかどうかはわかりませんが、変わったスタイルで読み進めてみました。
そして、この方式が途中から完全にタイミングが合ってきて、まあ、この辺でそろそろ一回分だろうと思って観ると、ちょうどその通りなんですよね (笑)。

実際にご覧になった方も少なくないかもしれませんが、このBBC制作のテレビドラマは全15回で、ざっくり言うと、初回のみが60分、あとは各回30分という構成になっていますが、これはBBCが国民的作家のためにその総力を結集したのでしょうか、僕は演劇のことはなにもわかりませんが、う〜ん、凄かった!

役者の知性が素晴らしいんですよね、つくづく役者は知性だなあと、やっぱりこの人たち、頭の方がかなりできるなあと。
特にこのエスター役の Anna Maxwell Martin という女優ですか、う〜ん、もうこれはエスターはこの人しかいないという感じでしょうか。
それから、ウィリアム・ガッピー役の Burn Gorman という男優、もうこれはちょっと原作以上にガッピー君ですよね、この演技力はすごいなあ〜!

まあ、スモールウィード老の孫のジュディーはいるのに同じ孫のスモール (バーソロミュー) がいないじゃないかとか、トニー・ジョブリング (偽名ウィーヴル) がいないのは何故なんだとか、原作との違いがいろいろ気にはなったのですが、時代考証が実に繊細で、例えば、当時のイギリスの貴族階級や上流階級がこれほど日常的に赤ワインを飲んでいたなんて、無知な僕はまったく知りませんでした。
それから、当時のパブのビールのジョッキは、なんと錫製なのですね。
うん?なんだか酒のことばかりに目がいっているな (笑)。
でもこれはあれですよね、自然発火するクルックは、ちゃんとジンを飲んでいますし、酒に関する階級問題もその描写が実に細かい。
つまりは労働者階級から中流階級を通して上流階級へと、酒もジン→ビール→ワインな訳ですね。

原作の『「おっと、待てよ!」一口飲んだ後、老人は目を細めて囁く。「これは大法官閣下の十四ペンスじゃない。こいつは十八ペンスのジンだ!」』(第2巻、p.141) というクルックの台詞は最高です。

(©︎BBC, Bleak House, 2005, Ada (left) and Esther (right))

(その2に続く)

2024年9月8日
和田 健

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