僕の癖は、はたしてリハビリテーションプログラムになり得るか!?

時々、自分の見ている風景は、もう決して以前のようには戻らないのかもしれないと感じると、そして、あと何十年も、このままゆがんだ失われた世界の中で、僕は生きていくのかと思うと絶望的になり、うまく説明することができませんが、何か実際に肺が喉の方へ突き上がってしまうような感覚になり、呼吸が深く自然にできなくなってしまい、ただ息を吐き出すだけの感じが続いて、言いようのない恐怖に襲われます。

そこで、たとえどんなに気休めではあっても、自分の生活を律するためにも、加齢黄斑変性からの心のケアも含めたリハビリテーションプログラムを、自分で新たに編み出して、毎日、続けていかなければいけないと思いました。

そうしないと、何の希望もなく、ただ悲しいだけの日々になってしまい、気持ちがさらにずるずると落ち込んでしまうような感じがしたからです。
そうなった時にはもう、自分で手を差し伸べても、自分を井戸の底から、引っ張り上げることが、とても深すぎてできない感じがするのです。

「人間は全く不幸になることはない、とママンはよくいっていた。」
(新潮文庫版、p.116)
“Maman disait souvent qu’on n’est jamais tout à fait malheureux.”
(Édition Gallimard、p.172)
これは、アルベール・カミュの言葉で、作品「異邦人」の中で、主人公ムルソーの母親の言葉として出てきます。
おそらく想像するに、この言葉は、作家本人の言葉ではなく、家族の誰かが実際に繰り返し話していた言葉なのではないでしょうか。
その根拠は、souvent という一語で、日常的な強い生活の匂いのようなものを感じます。
それはともかくとして、最初に読んだ時から、この箇所は、何故か非常に印象に残りましたが、病気になった今再び、この言葉が、心の中に強くよみがえってきました。

そこで先日来、自分で考案した4つのリハビリテーションプログラムを、毎日続けているのですが、その一つが絵画に関することで、F40号のキャンバス2枚に、白や黒をはじめ、様々な色の絵の具を塗っています。
これは、文字通りキャンバス全面に、ただ塗っているだけです。
そして、塗りながらキャンバス上の対象物を認識できるか確認しています。
今のところできませんので、落ち込む日が多くて、そういう日には、こんなことはいっそのことやめた方がいいとも思いますが、これがこんな眼の状態でも、どうしても描いてしまうのです。
もう、言わば本能ですね。
塗りたくってしょうがないんです。
楽しくって、うずうずしてしまう。
色に遊んでもらっている感じです。

それともう一つは、絵画はあくまで五感ですので、毎日、筆や刷毛を持ち、絵の具をつけ、滴り落ちる絵の具の水分量を把握し、絵の具の匂いを嗅ぎながら塗りあとを味わい、キャンバスのざらざらした肌触りを指で確かめ、最後に使った筆や刷毛をいつものようにきれいに洗って終わると、感覚が鈍りません

奇跡的に、いつの日か視力が戻るかもしれないじゃないですか。
その時に、こうした基本的な反復練習をコツコツと毎日継続していれば、すぐに元に戻れます。
基本的なことさえ、繰り返して準備していれば、そうしてブランクを作らなければ、すぐに絵画の中に入れます。
おそらくどのような分野でも同じでしょうけれど、基礎基本というのは、常に地道に繰り返し、繰り返し、細かく、細かくです。
大雑把であったり、派手な人目を引くような基礎基本というものはありません。

僕にはこういう風に、あまり意味もない、取るに足りない小さなことを毎日続ける癖のようなものがあって、今年で、日記を書くようになって23年目になります。
また毎日簡単な家計簿をつけるようになって、これも今年で23年目になります。
それから毎朝仏教のお経をするようになって、こちらは今年で22年目になります。
これらは何も僕に根気があるとかそういうことでは全くなくて、ただ単に習慣のようなもので、フランスにいようが、ニューヨークにいようが、どこにいようが毎日絶対にやります。
たとえばホテルに泊まっている時は、部屋の中のこの辺がご仏壇とか、自分で勝手に決めて、そこへ向かってお経をします。
ですので、F40号2枚の色塗りも、毎日続けられるように思います。

絵画というのは、どこまでも実践の仕事であり、頭の中の理論や理念ばかりで行動に移さず、ロジックでひたすら考えていても描けないと思います。
それは何故かと言うと、人間の脳は、色と形だけは実際にキャンバス上で観て確認するまでは、把握できないからです。
経験から予想はできるのですが、それはあくまでも予想であって、色と形だけは、実際に紙やキャンバスに置いてみないと、どうしても認識できないのです。

2022年2月16日
和田 健

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