未曾有のパンデミックの一年の終わりに思うこと
©︎Photo by Koto Takei 2020年10月16日、アトリエにて。
今年は、お世話になっているニューヨークのアゴラ・ギャラリーのディレクターが、5月にコロナで亡くなりました。
同じく5月に、長年の大切なパリの友人のお母様がコロナで亡くなりました。
また年末になって、長年にわたって交流を続けてきたイギリスの画家から、コロナで9ヶ月間に8回入院していた、現在も長期にわたる肺のリハビリテーションプログラムを続けているという手書きのクリスマスカードが我が家に届きました。
Painting nearly died, の文字を目にし胸が張り裂けそうな思いがしました。
昨日まで4日連続、国内の1日あたりの新規感染者が過去最高を記録しました。
もうたくさんなのに、イギリスで変異種が猛威をふるい始め、南アフリカでも変異種が現れました。
今年は、コロナ禍で結局、僕は一度も展覧会ができませんでした。
さぞかし同じような苦しい思いをした同業者の方も、どれほど多かったことでしょうか。
希望やモチベーションは何もありませんでしたが、僕は毎日、絵画の制作を続けました。
我が家にはテレビがありません。
森の中で唯一受信できる NHKラジオ第一放送R1 で、高校生くらいの女の子が「弟や妹がまだ私の下にいるので、コロナで進学を諦めようと思います」と話しているのを聞いて、涙が溢れました。
この子を何とか進学させてあげられないのでしょうか。
政府予算で1機164億円もかけて探査機を飛ばし、オーストラリアにカプセルが着地した時、ラジオで「勇気をもらいました、涙が出るほど感動しました」という年配の方の声に接し、とても不思議に思いました。
ラジオで少年院から出てきて更生した福岡の女の子が話しているのを聴いて、この子はトーマス・マンが25才の時に書いた「ブッデンブローク家の人びと」よりも物語を語る才能が明らかにあるなと思いました。
この子に何とか専門教育を受けさせてあげられないのでしょうか。
それとも、この天才を埋もれさせてもよいのでしょうか。
何故かこの子たちに、ソフィアでピカソのゲルニカを直に観せてあげたいと、できもしないのにすぐに強くそう思いました。
家から一番近くのコンビニの駐車場に、緊急事態宣言解除前の GW から、県外ナンバーがいつもあふれているのを見るたびに、日本人のモラルもだいぶ変わってきたなと痛感しました。
前総理は、そこのところを履き違えたな、読み間違えたなと思いました。
現総理は、お金を出してまで移動を支援しました。
コロナの問題が起きた春先から、信頼できると自分で感じた何人かの科学者の言うことだけを読み、最大公約数をくくるように努めてきました。
コロナの問題で、移動、旅行が感染拡大を広げる最も有効な手段であることは、現在、科学的にはっきり証明されています。
でも科学者でもない僕は日々の情報収集をしてメモを取りながら、この悪魔=COVID-19 がどこかへ行くのをじっと見ている、ただ待っているしかありませんでした。
何もできず、非常な無力感にとらわれました。
Google の COVID-19 感染予測 (日本版)の来月1月上旬の東京都のみの感染者数を見て、我が目を疑いました。
来年もおそらく展覧会はできないと思います。
できたとしても極めて制限された形での実施になると思います。
コロナの問題が起きてから、それにいち早く反応したアメリカのギャラリーを中心とした Online での展覧会を含む一連の活動の展開をいつも注視してきました。
一番すごいな、大胆と言うか、ついにここまできたかと思ったのは、アートフェアそのもの自体をバーチャルでやってしまおうとする今月の RAVE Miami のイベントでした。
それでも、この非接触、非移動の日常がどこへ行くのか、僕にはわかりません。
今年はコロナ禍で、日本ではアルベール・カミュの「ペスト」に久々に光が当たりました。
是非、僕の大好きなカミュの最高の作品だと僕が思う「最初の人間」も読まれてください。
僕は今、チャールズ・ディケンズの「クリスマス・キャロル」(新潮文庫)の再読を、Oxford Bookworms Library のやさしく語り直された素晴らしいテキストと照らし合わせながら読んでいます。
貧困から文豪にまで登り詰めた彼の作品の中のユーモアに、何かすがりつくようなコロナ禍の中の希望のようなものを感じ出しました。
そうです、暗闇の中のユーモア!
変異種の渦中のイギリスでは、今、人々に何が読まれているのでしょうか。
何も根拠はありませんが、やはり自国のディケンズのユーモアに接したいのではないでしょうか。
何もできない僕は来年、様々な思いを抱きながらも、それでも今年以上に絵画の制作をしようと、せめてそれだけは何故だか強く思います。
今取り組んでいる Black and Blue Paintings を仕上げた後の、それ以降の来年度の Painting の構想や展開について、この年末に熟考していこうと思います。
皆様、どうぞよいお年をお迎えください。
2020年12月27日
和田 健
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